オルガノイド由来細胞を用いた腎近位尿細管モデルチップを開発 ~ヒトiPS細胞を用いた高機能Microphysiological systems (MPS)~
マイクロエンジニアリング専攻の横川隆司 教授、Ramin Banan Sadeghian 特定准教授らの研究グループは、iPS細胞研究所の荒岡利和 特命助教、理化学研究所の髙里実 チームリーダーらと共同で、ヒトiPS細胞から作製した腎オルガノイド由来の細胞を用いて、腎近位尿細管における糖の再吸収機構や薬剤の排泄機構を再現し、それらの阻害剤の評価をin vitroで検証可能な生体模倣システム(Microphysiological systems (MPS))を開発しました。
腎近位尿細管は、血液をろ過した原尿から生体に必要な成分を再吸収し、不要なものを遠位尿細管や集合管へ導くことで、生体恒常性の維持に重要な役割を担っています。しかし、近位尿細管上皮細胞による物質輸送機能の評価は動物実験や培養皿での実験に限られており、よりヒト近位尿細管の機能を模倣した定量的な評価系が必要とされてきました。本研究では、ヒトiPS細胞由来のオルガノイドが高機能な細胞を含むこと、およびマイクロ流体デバイス(チップ)を用いた培養により細胞機能が上昇することに着目して、オルガノイド由来細胞と不死化細胞RPTECをチップ内で共培養する技術を開発しました。これにより、膜タンパク質であるSGLT-2およびP-gpの細胞極性に従った輸送能を計測することに成功しました。その結果、2種類の細胞の共培養と灌流培養によるせん断応力刺激が、いずれもSGLT-2とP-gpの輸送能を上昇させることがわかりました。近位尿細管上皮組織のMPSモデルは、再吸収や薬物排泄に関わる様々な薬剤評価を生体外で実施できるため、動物実験の低減に貢献します。今後は、様々な膜タンパク質の輸送評価や腎毒性評価に本MPSモデルを展開し、新規に開発された薬剤のスクリーニングツールとして社会に貢献していくことが期待されます。
本研究成果は2023年5月4日に国際学術誌「Communications Biology」のオンライン版に掲載されました。
研究詳細
オルガノイド由来細胞を用いた腎近位尿細管モデルチップを開発 ~ヒトiPS細胞を用いた高機能Microphysiological systems (MPS)~
研究者情報
- 横川 隆司 京都大学教育研究活動ベース
書誌情報
タイトル | Cells sorted off hiPSC-derived kidney organoids coupled with immortalized cells reliably model the proximal tubule |
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著者 |
Ramin Banan Sadeghian, 上野遼平, 髙田裕司, 川上瑛彦, Cheng Ma, 荒岡利和, 髙里実, 横川隆司 |
掲載誌 | Communications Biology |
DOI | 10.1038/s42003-023-04862-7 |
KURENAI | http://hdl.handle.net/2433/282144 |